IgA欠損症:免疫異常と輸血時の注意点

投稿者 安藤香織
コメント (0)
20
11月
IgA欠損症:免疫異常と輸血時の注意点

IgA欠損症とは何か

IgA欠損症は、免疫グロブリンA(IgA)が体内でほとんど作られない、最も一般的な原発性免疫不全疾患です。血清中のIgA濃度が7 mg/dL以下で、他の免疫グロブリン(IgGやIgM)は正常なままという特徴があります。この状態は、呼吸器や消化器、泌尿生殖器の粘膜を守る第一線の抗体が欠けていることを意味します。IgAは通常、全身の免疫グロブリンの約15%を占めますが、IgA欠損症の人はこの防衛ラインが機能しません。

この病気は遺伝的要因が強く、家族にIgA欠損症の人がいると、発症リスクは50倍以上になるとも言われています。薬の影響で一時的にIgAが減る「二次性欠損」とは異なり、IgA欠損症は生まれつきの免疫システムの欠陥です。日本を含むアジア諸国では、 Caucasian(白人)人口に比べて発症率はやや低いとされていますが、それでも1000人に1~2人は該当すると推定されています。

症状は出ない人が大多数

驚くべきことに、IgA欠損症の人の90~95%は、一生、何の症状も出ません。検査で偶然発見されるケースがほとんどです。でも、残りの5~10%の人は、何度も感染を繰り返したり、アレルギーや自己免疫疾患に悩まされます。

最もよく見られるのは、繰り返す鼻や耳、肺の感染です。中耳炎(32%)、副鼻腔炎(28%)、気管支炎(24%)、肺炎(18%)が頻繁に起こります。胃腸の問題も少なくなく、慢性下痢(12%)、ギアルジア感染(8%)、セリアック病(7%)と関連することがあります。セリアック病は小麦のグルテンに過剰反応する自己免疫疾患で、IgA欠損症の人の10~15%が併発します。

アレルギー症状も目立ちます。25%の患者がアレルギー性結膜炎、湿疹、花粉症、喘息を抱えています。これは、IgAが不足していることで、体が異物に対して過剰に反応しやすくなるためです。

診断は血液検査で確定

IgA欠損症の診断は、単純な血液検査でできます。免疫グロブリンの定量検査(ネフェロメトリーまたは turbidimetric 免疫測定法)で、IgAが7 mg/dL以下で、IgGとIgMが正常であれば、診断が確定します。この検査の精度は98.5%と非常に高く、誤診はほとんどありません。

さらに、ワクチンへの反応も確認します。例えば、破傷風や肺炎球菌のワクチンを打った後に、適切な抗体が作られているかを調べます。これは、免疫全体が機能しているかを確認するためです。IgAだけが足りない、他の免疫機能はしっかり働いている--これが「選択的」IgA欠損症の本質です。

輸血中に抗IgA抗体が発生し、医師がIgA除去血液を運び込む緊急シーン。

輸血は命に関わるリスクがある

IgA欠損症で最も恐ろしいのは、輸血です。IgAがいない体は、他人の血液に含まれるIgAを「異物」と見なして、抗IgA抗体を作り始めます。この抗体は、IgEやIgGのタイプで、輸血中に突然、激しいアレルギー反応を引き起こします。

20~40%のIgA欠損症患者がこの抗体を保有しており、その中で輸血を受けると、1000回に1回の割合で重篤なアナフィラキシー反応が起こります。反応は輸血開始後、15分以内に85%が発生します。症状は、蕁麻疹(25%)から始まり、血圧の急激な低下(60%)、気管支痙攣(45%)、最悪の場合、心停止(10%)に至ります。

この反応は、医師がIgA欠損症を知らなければ、単なる「輸血反応」と誤診され、対応が遅れて命を落とすこともあります。クライヴランド・クリニックのジェームズ・フェルナンデス医師は、「IgA欠損症の患者に通常の血液を輸血した場合、10%の確率で死亡する」と警告しています。

安全な輸血のための3つのルール

IgA欠損症の人が輸血を受けるには、絶対に守るべきルールがあります。

  1. 抗IgA抗体の検査を必ず受ける:輸血前に、ELISA法で抗IgA抗体が存在するかを調べます。感度は95%ですが、5~10%は偽陰性になるので、結果が陰性でも油断は禁物です。
  2. IgAを除去した血液を使う:通常の血液はIgAを含んでいます。代わりに、「IgA除去血液」(1mLあたり0.02mg以下)または「洗浄赤血球」(IgAを98%以上除去)を使用します。これらは特殊な処理が必要で、手配に48~72時間かかり、コストは通常の3倍になります。
  3. 医療アラートカードを常に携帯する:緊急時に医療従事者があなたの状態を知るためです。78%の重篤な輸血反応は、救急時に病歴が不明な状況で起こっています。カードには「選択的IgA欠損症。IgA除去血液または洗浄赤血球が必要」と明記してください。

免疫不全財団は、すべてのIgA欠損症患者に医療アラートブレスレットの着用を推奨しています。日本でも、救急車や病院の受付で「免疫疾患」の情報を伝えることが、命を守る第一歩です。

家族三人が家で血検査の結果を見ながら、IgAの欠損を象徴する光の粒子が浮かぶ。

他の病気との関連と長期管理

IgA欠損症は単独で存在するわけではありません。多くの患者が、他の病気と併発しています。そのため、定期的な検査が不可欠です。

  • セリアック病:年1回、組織トランスグリタミナーゼ抗体の検査
  • 肺の後遺症:2年ごとに肺機能検査(気管支拡張症の早期発見)
  • 自己免疫疾患:3か月ごとにリウマチや炎症性腸疾患のチェック

頻繁に輸血が必要な患者には、事前にメチルプレドニゾロン(40mg)とジフェンヒドラミン(50mg)を静脈注射する予防法が効果的で、反応率を75%減らすことができます。これは、クライヴランド・クリニックで確立された標準的なプロトコルです。

将来の治療として、人工IgAの投与療法が臨床試験段階で進められています。2023年10月現在、世界でわずか12人しか受けられていない、非常に新しい治療法です。まだ実用化には至っていませんが、希望の光です。

予後は良好、でも注意は怠らない

適切に管理すれば、IgA欠損症の人の95%は、普通の人と同じ寿命を生きられます。多くの人が、自分が持っている病気を知らずに、健康に暮らしています。

でも、症状が出る人、特に輸血が必要な人は、医療現場で「IgA欠損症」を理解してもらえないという現実があります。42%の患者が、医師や看護師に病気のことを説明するのに苦労した経験があると報告しています。

この病気は「見えない病気」です。でも、その見えないリスクが、突然、命を奪う可能性があります。知識と準備が、あなたの命を守ります。

IgA欠損症は遺伝するのでしょうか?

はい、IgA欠損症は遺伝的素因が強く関与しています。家族に患者がいると、発症リスクは50倍以上になります。しかし、遺伝のパターンは複雑で、両親が両方とも保因者でなくても、子供が発症することがあります。遺伝子検査は通常行わず、家族歴と血液検査で判断します。

ワクチンは打っても大丈夫ですか?

はい、IgA欠損症の人は通常のワクチン(生ワクチンを含む)を安全に接種できます。むしろ、肺炎球菌やインフルエンザ、破傷風などのワクチンは、感染予防のために強く推奨されています。IgA以外の免疫機能は正常なので、ワクチンの効果も期待できます。

妊娠中でもIgA欠損症は影響しますか?

妊娠自体はIgA欠損症に直接的な影響を与えません。ただし、妊娠中は感染症にかかりやすくなるため、風邪やインフルエンザの予防がより重要になります。出産時の輸血が必要な場合、事前に医療チームにIgA欠損症であることを伝えて、IgA除去血液を準備してもらう必要があります。

IgA欠損症の人は献血できますか?

はい、IgA欠損症の人は献血できます。実際、IgAがほとんどない血液は、IgA欠損症の患者に輸血する際に非常に貴重です。ただし、献血時に「IgA欠損症である」と伝えることが必須です。これにより、あなたの血液が適切な患者に使われます。

IgA欠損症とコロナウイルスの関係は?

IgA欠損症の人は、ウイルス感染に対してやや脆弱な可能性があります。特に、鼻や喉の粘膜の防御が弱いので、風邪やインフルエンザ、コロナウイルスにかかりやすい傾向があります。ただし、重症化するリスクは他の免疫不全と比べて高くなく、ワクチン接種と基本的な予防(マスク、手洗い)で十分に対応できます。