連邦巡回裁判所の医薬品特許訴訟における権限と影響

投稿者 安藤香織
コメント (12)
13
11月
連邦巡回裁判所の医薬品特許訴訟における権限と影響

アメリカの医薬品市場で特許の争いが起きると、その最終的な判断を下すのは、どこでしょうか?多くの人が思い浮かべるのは最高裁判所かもしれませんが、実際には、連邦巡回裁判所(Federal Circuit Court)が、ほぼすべての医薬品特許訴訟の最終的な裁決を担っています。この裁判所は、全米の特許訴訟を一元的に扱う唯一の上訴裁判所であり、医薬品業界の命運を左右する重要な存在です。

なぜ連邦巡回裁判所が医薬品特許の権限を持つのか

1982年に成立した「連邦裁判所改善法」によって設立されたこの裁判所は、特許関連のすべての上訴を専属的に扱うように設計されました。これは、特許法が複雑で専門的であるため、各地方裁判所が異なる解釈をすれば、業界全体が混乱するのを防ぐためです。医薬品特許は特に特殊で、新薬の開発には何十億ドルもの投資と10年以上の時間がかかります。そのため、特許の有効性や侵害の判定が、市場の入り口を決める重要な鍵になります。

連邦巡回裁判所は、この専門性を活かして、医薬品特許のルールを一貫して作り続けてきました。たとえば、ジェネリック薬のメーカーがFDAに「簡略新薬申請(ANDA)」を提出した時点で、その行為が全米にわたる特許侵害の「意図」を示すと判断。これにより、特許権者は、たとえジェネリックメーカーが本社をカリフォルニアに置いていても、デラウェア州の裁判所で訴えることができるようになりました。この2016年のMylan事件の判決は、医薬品特許訴訟の地図を一変させました。

ANDA申請と「全米管轄」の衝撃

ジェネリック企業がANDAを提出すると、それは「この薬を全米で売りたい」という明確な意思表示と見なされます。連邦巡回裁判所は、この行為が「管轄の最低要件」を満たすと判断。つまり、たとえ製品がまだ市場に出ていない段階でも、特許権者はどこでも訴えることができるのです。

この判決の影響は実務レベルで大きく出ています。2017年から2023年のデータでは、ANDA訴訟の68%がデラウェア州で提起されました。これは10年前の42%から大幅に上昇。なぜか?デラウェア州は企業法が整備されており、裁判所が特許権者に有利な傾向があるからです。ジェネリック企業にとっては、訴訟の場所を自由に選べないという状況が、法的コストを急激に押し上げています。一件あたりの平均訴訟費用は、2016年の520万ドルから2023年には870万ドルまで跳ね上がりました。

「用量」の特許は通らない?判例が変える開発戦略

医薬品特許の多くは、新薬そのものではなく、その「使い方」、つまり「用量」や「投与スケジュール」を守るためのものでした。たとえば、「1日1回、10mgを服用する」という方法を特許化して、競合製品の市場投入を遅らせる「エバーグリーン戦略」です。

しかし、2025年4月のImmunoGen事件の判決で、連邦巡回裁判所はこの戦略に明確な制限をかけました。裁判所は、既に知られている薬剤の用量を変えるだけでは、特許の対象にならないと明言。なぜなら、その用量が「合理的な成功の見込み」に基づいて導かれたものであれば、それは「進歩的でない(非特許的)」と判断されるからです。

この判決は業界に衝撃を与えました。Clarivateの分析によると、2025年以降、用量に関する二次特許の出願は37%減少。代わりに、企業は新しい化合物の開発に22%多く投資するようになっています。つまり、特許の「抜け穴」を塞ぎ、真のイノベーションだけを保護する方向にシフトしているのです。

製薬会社とジェネリック開発者との対峙、臨床試験計画と立証資格の壁が描かれる

オレンジブックと特許の登録:正確なマッピングが必須

FDAの「オレンジブック」は、医薬品の特許情報を一覧にした公式リストです。ジェネリックメーカーは、このリストに登録されている特許をすべて回避しなければ、市場進入が30ヶ月間停止されます。

2024年12月のTeva対Amneal事件で、連邦巡回裁判所は、オレンジブックに登録できる特許の条件を明確にしました。「その特許は、申請された薬そのものをカバーしている必要がある」というルールです。つまり、薬の成分とは関係のない「製造方法」や「包装方法」の特許を登録しても、それは無効とされます。

この判決の影響で、大手製薬会社は「特許と薬のマッピング」を徹底的に見直すようになりました。法律事務所の調査では、オレンジブック登録前の法的レビューにかかる日数が、平均17営業日増加。これにより、誤った登録による訴訟リスクを減らすため、企業はより慎重になっています。

「立証資格」の壁:ジェネリック企業の苦悩

ジェネリック企業が特許を無効にしようとするとき、まず「自分がその特許の影響を受ける立場にある」ことを証明しなければなりません。これを「立証資格(standing)」と呼びます。

2025年5月のIncyte対Sun Pharmaceutical事件で、裁判所は、単に「将来的に開発したい」という意思だけでは立証資格は認められないと判示。代わりに、臨床試験の計画書や、実際に薬の製造を開始している証拠が必要だと明言しました。

このルールは、ジェネリック企業にとって大きな障壁です。開発の初期段階で特許を無効にできなければ、何十億円もの資金を投じて臨床試験を進めることになります。裁判官のHugesは、この判決について「特許権者がジェネリックの開発を阻害する手段として利用されている可能性がある」と警告しています。この懸念から、2025年には上院で「特許品質法」が提案され、ジェネリック企業の立証資格を緩和する動きが始まっています。

オレンジブックが宇宙に浮かび、有効特許だけが光る薬剤として降り注ぐ

連邦巡回裁判所の影響:業界を動かす「法の支配」

連邦巡回裁判所の判決は、単なる法律の解釈を超えています。それは、何十億ドルもの市場を動かし、新薬の上市スケジュールを左右し、患者がいつ薬を手に入れられるかを決定しています。

たとえば、バイオシミラー(生物由来ジェネリック薬)の市場は、2020年以降、連邦巡回裁判所の判決によって300%拡大。これは、ANDAの管轄原則がバイオシミラーにも適用されたためです。

一方で、この裁判所は「専門性の高さ」の代償として、閉鎖的な判断を繰り返すという批判も受けています。他の裁判所が特許を有効と判断しても、連邦巡回裁判所がそれを覆すケースは、医薬品分野で38.7%に達します。これは、他の分野の特許訴訟の22.3%を大きく上回ります。

結局、連邦巡回裁判所は、アメリカの医薬品市場の「ルールメーカー」です。その判決は、特許の有効性、市場の入り口、開発の方向性、そして最終的に、患者がどれだけ早く安価な薬を受け取れるかを決定しています。

今後の展望:バランスの取れた制度へ

連邦巡回裁判所の方向性は、2027年までに「エバーグリーン特許」の数が15~20%減少すると予測されています。これは、用量や投与方法の特許がより厳しく審査されるためです。一方で、新薬そのものの特許(化合物特許)は、82%の確率で維持されています。つまり、真のイノベーションは守られ、単なる「ルールの抜け穴」は閉じられているのです。

今後、この裁判所がどのように「特許権者」と「ジェネリック企業」のバランスを取るかが、アメリカの医薬品市場の未来を決めます。患者にとって、安価で効果的な薬がどれだけ早く市場に出るかは、この裁判所の判断にかかっているのです。

連邦巡回裁判所とは何ですか?

連邦巡回裁判所は、アメリカの連邦上訴裁判所の一つで、特許訴訟のすべての上訴を専属的に扱う唯一の裁判所です。他の裁判所とは異なり、地域の民事・刑事事件は扱わず、特許、商標、政府契約などの専門分野に集中しています。医薬品特許の争いは、この裁判所で最終的に決着します。

ANDA申請とは何ですか?

ANDA(Abbreviated New Drug Application)は、ジェネリック医薬品メーカーがFDAに提出する簡略新薬申請です。新薬と同じ有効成分、用量、投与方法、製造方法を証明すれば、臨床試験を大幅に省略して市場に出すことができます。しかし、既存の特許が登録されている場合、訴訟が起こり、市場進入が30ヶ月間停止される可能性があります。

なぜデラウェア州で訴訟が多いのですか?

デラウェア州は、企業登録が容易で、裁判所が特許権者に有利な判決を出しやすいとされています。2016年の連邦巡回裁判所の判決により、ANDA申請だけで全米管轄が成立するため、特許権者は訴訟の場所を自由に選べるようになりました。結果として、68%のANDA訴訟がデラウェアで提起されています。

用量の特許は無効になりやすいのですか?

はい、2025年のImmunoGen事件の判決以降、既存の薬剤の用量や投与頻度を変更しただけの特許は、ほぼ無効とされています。裁判所は、「その用量が専門家にとって合理的な範囲内であれば、特許性がない」と判断しています。これにより、企業は新薬の開発に注力するようになっています。

ジェネリック企業は特許を無効にできるのですか?

できますが、簡単ではありません。2025年のIncyte事件で、連邦巡回裁判所は「開発の意図」だけでは立証資格が認められないと判示。実際に臨床試験を開始していることや、製造計画を具体的に持っていることなど、客観的な証拠が必要です。これにより、初期段階での特許無効請求が難しくなっています。

オレンジブックの登録はなぜ重要ですか?

オレンジブックに登録されている特許は、ジェネリックメーカーが市場に入る前に必ず回避しなければなりません。2024年のTeva事件で、裁判所は「その特許が実際に薬の成分をカバーしていること」を登録の条件としました。つまり、薬の製造方法や包装方法の特許は、登録しても無効とされ、ジェネリック企業はその特許を無視して市場に入ることができます。

12 コメント

  • Image placeholder

    Ryo Enai

    11月 15, 2025 AT 11:07
    アメリカの裁判所が日本の薬を支配してるって…これって植民地主義じゃね?🤯
  • Image placeholder

    aya moumen

    11月 17, 2025 AT 01:35
    え、でもジェネリックが安くなるのは患者のためじゃないですか?😢 なんでこんなに敵対的なの...
  • Image placeholder

    Shiho Naganuma

    11月 17, 2025 AT 17:05
    日本はこんな弱腰な国じゃない!アメリカの裁判所に従うなんて、恥ずかしくないの?🇯🇵💢
  • Image placeholder

    Kensuke Saito

    11月 19, 2025 AT 17:00
    ANDA申請で全米管轄って法理的に無理があるでしょ?最低要件の定義が曖昧すぎ
  • Image placeholder

    芳朗 伊藤

    11月 20, 2025 AT 14:39
    用量特許を無効にした判決は正しい。でもなんで企業が新薬開発に投資する気になれるの?
  • Image placeholder

    Akemi Katherine Suarez Zapata

    11月 22, 2025 AT 09:24
    デラウェアって…なんでいつもここ??? なんかこわい…
  • Image placeholder

    依充 田邊

    11月 23, 2025 AT 20:47
    ああ、また特許で金儲けするお偉いさんたちのゲームか。患者はただの駒だよね。💸💔
  • Image placeholder

    Hiroko Kanno

    11月 24, 2025 AT 08:30
    オレンジブックの登録ルールが厳しくなったって、それっていいことじゃない?誤解減るし
  • Image placeholder

    Rina Manalu

    11月 25, 2025 AT 22:10
    立証資格の要件が厳しくなったのは、ジェネリック企業が早期に訴訟を仕掛けるのを防ぐためだと思います。慎重さは必要です。
  • Image placeholder

    Hana Saku

    11月 26, 2025 AT 18:27
    この記事、誤字脱字だらけ。『管轄』が『観轄』になってるし、文法もぐちゃぐちゃ。誰が校正したの?
  • Image placeholder

    Yoshitsugu Yanagida

    11月 28, 2025 AT 12:19
    連邦巡回裁判所が専門的って言ってるけど、結局はアメリカの薬価を操作してるだけだよね?
  • Image placeholder

    kimura masayuki

    11月 29, 2025 AT 10:58
    日本はもっと強気でいい。アメリカの特許制度に従う必要なんてない。私たちの命はアメリカの裁判所の判断で決まるべきじゃない!

コメントを書く

*

*

*