保険会社が特定のジェネリック薬を好む理由:フォーミュラリーの構造とその背景

投稿者 安藤香織
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7
2月
保険会社が特定のジェネリック薬を好む理由:フォーミュラリーの構造とその背景

保険会社がジェネリック薬を優先する理由は、単に「安いから」ではありません。それは、患者の健康と医療費のバランスを取るための、緻密に設計された戦略です。アメリカの医療制度では、保険プランが「優先ジェネリック薬リスト」と呼ばれるフォーミュラリー(処方薬リスト)を導入しており、このリストが患者の薬の選択と支払い額を大きく左右しています。

フォーミュラリーとは何か?

フォーミュラリーとは、保険会社が「この薬は推奨します」「この薬は高額なので他の選択肢を試してください」というルールを明確にしたリストです。これは、医師と薬剤師の専門家チームが、薬の安全性、有効性、そして何より「価値」を評価して作成します。FDAのデータによると、ジェネリック薬はブランド薬と比べて80~85%安いのが普通です。もし同じ薬に6つ以上のジェネリックが市場に出ているなら、価格は最大で95%下がることもあります。

このリストは、通常3~5段階の「段階」(ティア)に分かれています。ティア1が最も安価で、ここに含まれるのはすべて「優先ジェネリック薬」です。30日分の処方で、自己負担額はたったの5~15ドル。ティア2はブランド薬ややや高めのジェネリックで、自己負担は25~50ドル。ティア3は非推奨のブランド薬で、50~100ドルかかります。ティア4は高価な専門薬(バイオシミラーを含む)で、自己負担は100ドルを超えるか、薬の価格の一定割合を支払う仕組みです。

なぜジェネリックが「優先」されるのか?

ジェネリック薬がティア1に置かれるのは、単に安いからではありません。FDAは、ジェネリック薬がブランド薬と「同等の効果」を持つことを厳しく確認しています。具体的には、薬の体内吸収量がブランド薬の80~125%の範囲内にあることを証明しなければなりません。2021年のFDA調査では、承認されたジェネリック薬の98.5%がこの基準を満たしていました。

この「同等性」が保証されているからこそ、保険会社はジェネリックを推奨できます。2022年の研究では、ジェネリック薬1回分の平均コストは197ドル、ブランド薬は349ドルでした。ティアが同じでも、自己負担額の差はわずか3ドルとほとんど変わらない場合があります。つまり、患者はほぼ同じ効果を、半分以下の価格で得られるのです。

このシステムがどれだけ効果的かは、全体の薬の使用量からわかります。2023年のデータでは、アメリカで処方された薬の90%がジェネリック薬でした。しかし、その価格は全体の薬費の23%に過ぎません。これは、ジェネリック薬が医療費削減の柱になっている証拠です。

FDAの承認証を掲げる医師と、保険会社の契約書を握る影の人物

患者にとってのメリットとデメリット

多くの患者は、ジェネリック薬に切り替えたことで、月々の薬代が劇的に減りました。Redditでは、レボチロキシン(甲状腺薬)のジェネリックに変えたユーザーが、月187ドルから12ドルに減ったと報告しています。GoodRxの調査では、76%の患者がジェネリック薬の低コストに満足しています。

しかし、問題もあります。特に「バイオシミラー」と呼ばれる生物由来薬のジェネリックです。ブランド薬のバイオシミラーは、価格が安いのに、メーカーが提供する自己負担軽減プログラム(コペイカード)が適用されない場合が多いのです。例えば、ヒュミラ(ブランド)の月額費用は1,200ドルですが、バイオシミラーのアムジェビタは850ドル。でも、メーカーの支援がなければ、実質的な負担はあまり変わらないことがあります。Cignaの2023年の報告では、バイオシミラーに切り替えた患者の44%が、支援プログラムの喪失で困っていると答えています。

また、医師が「この薬は患者に合っている」と判断しても、保険が「まずジェネリックを試してください」という「ステップセラピー」を強制するケースがあります。アメリカ医師会の2022年の調査では、42%の医師が、慢性疼痛の治療でこの制度が患者の治療を遅らせていると報告しています。

保険会社の裏側:価格交渉と利益構造

保険会社がジェネリックを好む背景には、 Pharmacy Benefit Manager(PBM)という中間業者の存在があります。PBMは、保険会社と製薬会社の間に立ち、薬の価格交渉を一手に引き受けています。2023年のKFFの分析によると、PBMはブランド薬に対して平均25~30%の値引きを引き出しますが、ジェネリック薬には直接仕入れの契約を結び、さらに大きな割引を実現しています。

そして、市場の実態は驚くほど集中しています。CVS Health、Cigna(Evernorth)、UnitedHealthのOptumRxの3社が、PBM市場の78%を支配しています。この構造は、保険プランが「どの薬を優先するか」を一元的に決定できるようにしています。

夜の部屋で薬のコスト比較を確認する患者、未来の価値基準システムが浮かぶ

患者が自分を守るためにできること

保険のフォーミュラリーは、毎年変更されます。そのため、毎年11月の「年間登録期間」に、自分のプランの薬のリストを確認することが重要です。Medicareのデータでは、この確認だけで、1つの薬につき年間417ドルの節約が可能です。

薬局で薬を処方してもらうとき、医師が「ジェネリックでよい」と書いていない場合、薬剤師は自動的にジェネリックに切り替えることができます。ただし、患者の37%はこの権利を知りません。医師に「ジェネリックでいいですか?」と聞いてみましょう。

もし保険が「この薬は推奨されていません」と拒否した場合、医師が「この薬が必要な理由」を書いた書類を提出すれば、68%のケースで拒否が取り下げられます。また、自分のプランのフォーミュラリーがわかりにくいなら、Medicareのプランファインダー(4.2/5点)のようなツールを使い、他の保険プランと比較してみるのも一つの方法です。

将来の変化:バイオシミラーと価値ベースのフォーミュラリー

2025年からは、メディケアのフォーミュラリーが大きく変わります。バイオシミラーを、元のブランド薬と同じティアに置くことが義務づけられます。これにより、バイオシミラーの使用率は現在の15%から45%に跳ね上がる見込みです。

しかし、新しい問題も生まれています。PBMの63%が「accumulator adjuster」という制度を導入しています。これは、バイオシミラーの自己負担額を「年間自己負担上限」にカウントしないというルールで、結果的に患者は「高額薬」の支払いを続けることになります。つまり、安くても「節約にならない」状況が生まれています。

2030年には、フォーミュラリーは「価格」ではなく「効果」で薬を評価する方向に進むと予測されています。つまり、「この薬は患者の生活の質をどれだけ改善したか?」というデータが、優先順位を決める基準になるのです。

ジェネリック薬はブランド薬と同じ効果があるの?

はい。FDAは、ジェネリック薬がブランド薬と同等の効果を持つことを厳しく確認しています。体内での吸収量や作用の仕方が、ブランド薬の80~125%の範囲内であることが必須です。2021年の調査では、承認されたジェネリック薬の98.5%がこの基準を満たしています。

保険がジェネリックを推奨するのは、ただ安いから?

安いのは大きな理由ですが、それだけではありません。ジェネリックは安全性と有効性が証明されており、患者の自己負担を減らす効果も大きいです。保険会社は、薬の価格と患者の健康を両立させるために、このシステムを設計しています。

バイオシミラーはなぜ普及しないの?

バイオシミラーは価格が安いのに、メーカーの自己負担軽減プログラム(コペイカード)が適用されないことが主な原因です。ブランド薬の患者は、この支援で実質的な負担が抑えられていましたが、バイオシミラーにはそれがなく、結果として患者の負担が変わらないケースが多いのです。

医師が「ブランド薬を出したい」と言ったら、保険は拒否できるの?

はい、保険は「ステップセラピー」や「事前承認」のルールで、医師の判断を上書きできます。しかし、医師が「この患者にはこの薬が必要」と説明する書類を提出すれば、68%のケースで拒否は取り下げられます。

ジェネリック薬に切り替えると、副作用が増える?

一般的には問題ありません。ハーバード大学の研究では、ジェネリック薬の使用により年間1.68兆ドルの医療費が節約されていますが、0.12%のケースで不適切な切り替えが原因で副作用が起き、47億ドルの追加コストが発生しています。しかし、これは全体のわずか一部です。