肺炎はただの風邪じゃない
風邪をひいて咳が続くと、"ただの風邪だろう"と放置しがちです。でも、その咳が数日たっても悪化する、高熱が続く、息苦しさが増す…そんなときは、肺炎の可能性があります。肺炎は肺の小さな袋(肺胞)が炎症を起こして、空気の出入りがうまくいかなくなる病気です。日本でも毎年、多くの人が肺炎で入院し、数千人が命を落としています。特に高齢者や持病のある人、タバコを吸う人には注意が必要です。
細菌性肺炎:急にやってくる強い感染
日本で最もよく見られる肺炎のタイプは、細菌が原因の細菌性肺炎です。全体の約半分がこれにあたります。その中でも、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)が最もよく見られる原因菌です。子どもや高齢者に特に多く、重症化しやすいです。
このタイプの特徴は、急に症状が現れることです。ある日、急に39℃以上の高熱が出たり、胸の痛みが鋭く、深く息を吸うたびに痛むことがあります。咳は痰(たん)を伴い、黄色や緑色、時には血が混じることもあります。唇や指先が青ざめる(チアノーゼ)こともあり、これは酸素が足りていないサインです。肺の音を聴くと、炎症のある部分では呼吸音が弱くなったり、ゼロゼロ音が聞こえます。レントゲンでは、肺の一部が白く固く写るのが特徴です。
治療は、原因となる細菌に効く抗生物質です。肺炎球菌にはペニシリン系やマクロライド系の薬が使われます。早めに治療を始めれば、ほとんどの人が回復します。でも、抗生物質を必要もないのに使うと、耐性菌が増えるリスクがあります。だから、医師が細菌性と診断した場合にだけ使うのが大切です。
ウイルス性肺炎:風邪が肺に広がったとき
肺炎の約3分の1は、ウイルスが原因です。インフルエンザウイルス、RSウイルス、コロナウイルス(COVID-19)などが主な原因です。特に冬から春にかけて、インフルエンザの流行期にはウイルス性肺炎が増加します。
このタイプの特徴は、ゆっくりと悪化していくことです。最初は鼻水、喉の痛み、軽い咳といった風邪のような症状から始まり、3〜5日たってから、だるさ、筋肉痛、高めの熱(38〜39℃)が出て、咳がひどくなります。痰は少ないか、透明か白いことが多いです。胸の痛みは細菌性ほど強くなく、両方の肺に広がる傾向があります。レントゲンでは、肺全体に薄く白いモヤが広がったように見えます。
ウイルス性肺炎の治療は、抗生物質では効きません。基本的には、十分な休息と水分補給、解熱剤で症状を和らげる対症療法が中心です。インフルエンザが原因の場合は、発症から48時間以内にタミフルなどの抗ウイルス薬を使うと、回復が早まることがあります。COVID-19が原因の重症例には、レムデシビルなどの薬が使われます。
注意すべきは、ウイルス性肺炎のあとに、細菌が二次的に感染して細菌性肺炎を起こすことです。インフルエンザの後に肺炎球菌が入り、重症化するケースが少なくありません。だから、ウイルス性肺炎の症状が悪化したり、痰が濃い色に変わったら、すぐに医療機関を受診してください。
カビ性肺炎:免疫が弱っている人のリスク
カビが原因の肺炎は、日本では比較的稀ですが、免疫が弱っている人にとっては非常に危険です。がんの治療中、臓器移植後、HIV感染、ステロイド薬を長く使っている人などが該当します。
主な原因は、土や鳥の糞、コウモリの糞にいるカビです。関東地方でも、農作業や庭の手入れをしている人に多く見られます。代表的なカビは、コクシジオイデス(バレー熱)、ヒストプラズマ(組織胞浆菌症)、ブラストミセス(ブラストミセス症)です。これらのカビは、土壌や空気中に浮遊し、吸い込むことで感染します。
症状は、細菌性やウイルス性と似ていて、発熱、咳、たん、寒気があります。でも、胃の不快感や下痢、関節痛など、肺以外の症状も出ることがあります。レントゲンやCTでは、肺にしこりやしみのような影が複数見られることがあります。このタイプは、普通の検査では見分けがつきにくく、特殊な検査(血液やたんの検査)が必要です。
治療は、抗カビ薬です。重症の場合は、アムホテリシンBという強い薬を使います。軽症なら、イトラコナゾールやボラコナゾールなどの飲み薬で対応します。治療は長くかかることが多く、数ヶ月から1年以上続くこともあります。予防には、土をかき回す作業の際はマスクを着用し、特に免疫が弱っている人は、カビの多い環境を避けることが重要です。
見分けるポイント:細菌、ウイルス、カビの違い
肺炎の種類を間違えると、治療がうまくいきません。以下のように、3つのタイプを比較してみましょう。
| 項目 | 細菌性肺炎 | ウイルス性肺炎 | カビ性肺炎 |
|---|---|---|---|
| 発症の速さ | 急激(数時間〜1日) | ゆっくり(3〜5日) | ゆっくり(数週間) |
| 熱の高さ | 39〜40℃以上 | 38〜39℃ | 38℃前後 |
| 咳の特徴 | 痰あり(黄色・緑色・血混じり) | 乾いた咳、痰は少ない | 痰あり、場合によって血混じり |
| 肺のレントゲン | 片側の白い固い部分 | 両側に薄いモヤ | 複数のしこりや影 |
| 主な治療薬 | 抗生物質 | 抗ウイルス薬(場合による) | 抗カビ薬 |
| リスクが高い人 | 子ども、高齢者、タバコ吸い | すべての年齢層(冬に流行) | 免疫が弱い人、農業・土作業者 |
この表を見れば、自分の症状がどのタイプに近いか、なんとなくわかるはずです。でも、自分で診断するのは危険です。症状が似ている部分も多いので、正確な診断には、血液検査、たんの検査、レントゲン、PCR検査などの組み合わせが必要です。
予防は、ワクチンと生活習慣で
肺炎を防ぐには、まずワクチンが効果的です。
- 肺炎球菌ワクチン:2か月から接種可能。子どもでは7割以上、高齢者でも5〜6割の発症を防ぎます。日本では13価と23価の2種類があり、医師と相談して選びます。
- インフルエンザワクチン:毎年10月〜11月に接種。インフルエンザが原因の肺炎を4〜6割減らします。
- COVID-19ワクチン:重症化を9割以上防ぎます。高齢者や持病のある人は、定期的な追加接種が推奨されています。
ワクチン以外の予防法も大切です。
- 手洗い・うがい:ウイルスや細菌の侵入を防ぎます。
- タバコをやめる:喫煙者は非喫煙者より2倍以上肺炎になりやすいです。
- バランスの取れた食事と十分な睡眠:免疫を高めるために必要です。
- カビの多い場所を避ける:土を触るときはマスクを着用。特に免疫が弱い人は、庭の手入れや農作業の際は注意してください。
今後の診断と治療の進化
最近の研究では、1回のたんや血液検査で、20種類以上のウイルスや細菌を同時に検出できるPCR検査が普及してきています。これにより、"これは細菌かウイルスか"という判断を、より早く正確に行えるようになっています。
また、今後は、患者の体の反応(免疫の働き方)を分析して、細菌性かウイルス性かを自動で見分けるバイオマーカーの開発が進んでいます。これができれば、抗生物質の無駄遣いを4割以上減らせる可能性があります。
新しい肺炎球菌ワクチン(20価)もすでに日本で使用されています。これにより、これまでのワクチンではカバーできなかった菌の種類まで防げるようになります。
まとめ:肺炎は見逃さない、正しく対処する
肺炎は、風邪と間違えやすいですが、命に関わる病気です。急に高熱が出た、咳が長引く、息苦しい、痰の色が変わった--そんなときは、"もう少し様子を見る"ではなく、すぐに医療機関を受診してください。
細菌性かウイルス性か、それともカビ性か。その違いを理解して、正しい治療を受けることが、回復への第一歩です。ワクチン接種と生活習慣の改善で、自分と家族を肺炎から守りましょう。
肺炎は風邪とどう違うの?
風邪は鼻や喉の上気道に影響しますが、肺炎は肺の奥(肺胞)に炎症が起きる病気です。風邪なら1週間ほどで治りますが、肺炎は2週間以上続くことがあります。高熱が続く、胸の痛みが強い、息が苦しい、痰の色が濃い--これらの症状があるなら、風邪ではなく肺炎の可能性が高いです。
抗生物質は肺炎に必ず効くの?
いいえ。抗生物質は細菌にしか効きません。ウイルスやカビが原因の肺炎には効きません。ウイルス性肺炎に抗生物質を飲んでも、症状は良くなりません。むしろ、耐性菌が生まれるリスクが高まります。医師が細菌性と診断した場合にのみ、抗生物質を処方します。
カビ性肺炎はうつるの?
いいえ、カビ性肺炎は人から人へはうつりません。土や鳥の糞にいるカビの胞子を吸い込むことで感染します。農作業や庭の手入れ、工事現場など、カビの多い場所で働く人がリスクが高いです。免疫が弱っている人が感染すると重症化しやすいので、マスクや防塵対策が重要です。
子どもや高齢者はなぜ肺炎になりやすいの?
子どもは免疫がまだ発達していないため、細菌やウイルスに負けやすいです。高齢者は免疫の力が弱まり、肺の機能も低下しています。また、他の病気(糖尿病、心臓病、肺の病気)を持っていると、肺炎のリスクがさらに高まります。特に、80歳以上の高齢者は、肺炎で死亡するリスクが最も高いです。
肺炎の予防ワクチンは、何歳から受けられるの?
肺炎球菌ワクチンは、2か月から接種できます。インフルエンザワクチンは6か月以上から、COVID-19ワクチンは6か月以上から受けられます。高齢者(65歳以上)は、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの両方を受けることが強く推奨されています。自治体によっては、無料または助成金が出る場合があるので、役所に確認してください。