生体同等性と患者の安全:なぜ検査が重要なのか

投稿者 宮下恭介
コメント (2)
25
11月
生体同等性と患者の安全:なぜ検査が重要なのか

生体同等性とは、同じ有効成分を含むジェネリック薬とブランド薬が、体内で同じ速度・同じ量で吸収され、同じ場所で同じ効果を発揮することを科学的に証明することです。この検査がなければ、ジェネリック薬は「安価なコピー」ではなく、患者の命を左右するリスクになりかねません。

なぜ生体同等性が患者の安全に直結するのか

ジェネリック薬は、ブランド薬と「同じ成分」を含んでいても、吸収の仕方が違えば、効果や副作用が大きく変わります。たとえば、てんかんの薬であるフェニトインや、血液を固まりにくくするワルファリンは、体内の濃度がわずかに変わっただけで、発作が起きたり、出血が止まらなくなったりします。こうした「治療窓が狭い薬」では、生体同等性の基準がより厳しくなります。

米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)は、ジェネリック薬の血中濃度がブランド薬の80~125%の範囲内に収まることを要求しています。これは、薬が体内で「どれだけ早く」「どれだけ多く」吸収されるかを、血液中の濃度変化で測定して確認する方法です。この数値の外れたら、そのジェネリック薬は承認されません。

この基準は、単なる理論ではありません。2020年から2023年のFDAの有害事象報告システム(FAERS)のデータでは、生体同等性を満たしたジェネリック薬に関連する有害事象は、全体の0.07%にすぎません。一方、ブランド薬は2.3%です。つまり、生体同等性の検査がきちんと行われている限り、ジェネリック薬はブランド薬と同等、あるいはそれ以上に安全なのです。

生体同等性検査は、どうやって行われるのか

検査は、健康な成人を対象に、ランダムに2つの期間に分けて、ブランド薬とジェネリック薬をそれぞれ1回ずつ服用させ、その後の血液中の薬の濃度を細かく測定します。これを「クロスオーバー試験」といいます。薬が体内に入ると、どれくらいの時間でピークに達し、どれくらいの時間で体から抜けるかを、グラフにして比較します。

主に測定するのは2つの値です。

  1. AUC:薬が体内にどれだけ長くとどまるか(全体の曝露量)
  2. Cmax:薬の血中濃度が最高になる値(ピーク濃度)

この2つの値が、ブランド薬とジェネリック薬で90%の確率で80~125%の範囲内に収まれば、「生体同等」と認められます。

しかし、薬によってはこの基準が緩められることもあります。たとえば、個人差が非常に大きい薬(高変動性薬)では、75~133%まで許容範囲を広げます。ただし、その代わりに「薬の平均濃度比」が100%に近いこと(点推定値の制約)を厳しくチェックします。こうした柔軟な対応は、患者が安全に薬を使えるようにするための、科学的な工夫です。

ジェネリック薬とバイオシミラーの違い

ジェネリック薬とバイオシミラーは、どちらも「安価な代替薬」ですが、根本的に違います。

ジェネリック薬は、化学的に完全に同じ分子で作られた「小さな薬」です。たとえば、アムロジピンやロサルタン。これらは、分子の構造が100%同じであれば、生体同等性検査だけで十分です。

一方、バイオシミラーは、細胞を使って作られる「大きなタンパク質薬」です。がん治療薬のアバスチンや、関節炎の薬のレミケードなどが該当します。これらの薬は、分子の構造がわずかに違うだけで、効果や免疫反応が変わってしまう可能性があります。そのため、生体同等性だけでは足りず、動物実験、免疫反応の検査、臨床試験など、複数のデータを総合的に評価しなければなりません。

つまり、ジェネリック薬の検査は「同じ薬か?」を確認するもの。バイオシミラーの検査は「似た薬か?」を証明するものです。両者は、患者の安全を守るための異なるアプローチなのです。

病床の患者にジェネリック薬を手渡す医師の優しい手と、血中濃度のグラフが浮かぶ幻想的な光景。

患者の声と、本当の問題

「ジェネリックに変えたら、体調が悪くなった」という声を、患者の掲示板やSNSで見かけます。たとえば、うつ病の薬であるセルトラリンをジェネリックに切り替えた後、不安が強くなったという報告もあります。

しかし、こうした体験談は、必ずしも「生体同等性の失敗」を意味しません。FDAは、ジェネリック薬の不良反応を常時監視しています。もし、あるジェネリック製品が複数の患者で同じ問題を引き起こしているなら、直ちに回収されます。2022年の米国地域薬剤師協会の調査では、87%の患者が「ジェネリック薬はブランド薬と同じ効果だった」と答えています。

問題は、薬の「形」や「配合」の違いかもしれません。たとえば、ジェネリック薬のカプセルの被膜が違うと、吸収が遅れることがあります。また、乳糖アレルギーの人が、ジェネリック薬に含まれる充填剤で反応を起こすこともあります。こうした「非有効成分」の違いは、生体同等性検査では評価されませんが、患者にとっては重要なことです。

だからこそ、薬剤師は、患者が「何に反応するか」を聞き取り、必要に応じてジェネリックのメーカーを変更する必要があります。検査が合格していても、患者一人ひとりの体に合った薬を選ぶのが、本当の安全な医療です。

日本と世界の違い

日本では、ジェネリック薬の生体同等性検査は、通常「空腹時」で行います。しかし、ブランド薬が「食後服用」を推奨している場合でも、日本は空腹時のデータで承認します。これは、海外(たとえば米国)と比べて、検査条件が厳しい面があります。

一方、米国やEUでは、空腹時と食後両方のデータを提出することが求められる場合が多いです。なぜなら、食事によって薬の吸収が大きく変わる薬(例:イトラコナゾール)があるからです。日本は、そのような薬についても、食後でのデータを追加で提出するよう、徐々にガイドラインを変更しつつあります。

世界保健機関(WHO)は、2023年時点で134カ国が生体同等性の基準を導入しています。10年前は89カ国でした。つまり、世界中で、ジェネリック薬の安全を守るためのルールが広がっているのです。

薬剤師がジェネリック薬を選んでおり、高齢の患者が安心して服薬する様子を描いた二段構成のアニメ風イラスト。

生体同等性がもたらす、大きなメリット

ジェネリック薬は、ブランド薬の10分の1~1/5の価格で提供されます。米国では、処方された薬の90%がジェネリックですが、薬の総支出の23%しか占めていません。2020年だけで、米国の医療システムは3130億ドル(約4.7兆円)を節約しました。

日本でも、2023年にはジェネリック薬の使用率が70%を超えました。高齢者が多い日本では、薬の費用負担が大きな問題です。生体同等性の検査がしっかり行われているからこそ、患者は「安くて、効く薬」を選べるのです。

さらに、AARP(米国高齢者協会)は、2006年から2020年の間に、ジェネリック薬がメディケアの患者に1.7兆ドルの節約をもたらしたと報告しています。これは、医療費の削減だけでなく、患者が薬を続けられるようにする「治療継続性」の保障でもあります。

未来への挑戦:複雑な薬への対応

皮膚に塗るクリームや、吸入する気管支拡張薬、目薬などは、血中濃度を測っても、効果を正しく評価できません。こうした「局所作用薬」では、生体同等性の検査が難しく、現在も世界中の規制当局が新しい方法を探しています。

FDAは、2022年から「複雑なジェネリック薬」のための新しいガイドラインを策定中です。その一つが、AIを使って薬の溶解プロファイルを分析し、臨床試験の代わりにする試みです。2018年には3件だったAIによる生体同等性の申請が、2022年には17件に増えました。

また、薬の分子構造をコンピューターでシミュレーションし、体内での吸収を予測する「生体由来薬物動態モデル(PBPK)」も、実用化が進んでいます。これにより、人を巻き込む試験を減らし、より早く、安全にジェネリック薬を市場に届けることが可能になります。

結論:検査が、命を守る

生体同等性の検査は、単なる「薬の比較テスト」ではありません。それは、患者が安全に、継続的に薬を使えるようにするための、科学的な盾です。安さだけを追求すれば、危険な薬が流通します。しかし、検査を徹底すれば、誰もが、安くて効く薬を受け取れる社会が実現します。

ジェネリック薬を選ぶのは、経済的な選択ではありません。それは、自分や家族の命を守るための、正しい選択です。検査がしっかり行われている限り、ジェネリック薬は、ブランド薬とまったく同じ信頼性を持っています。そして、その信頼を支えているのは、世界中の科学者と規制当局が、毎日行っている、地道な検査と監視なのです。

2 コメント

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    Akemi Katherine Suarez Zapata

    11月 27, 2025 AT 13:47

    ジェネリックって本当に大丈夫なのかって、最初は疑ってたけど、この記事読んで安心した。薬って命に関わるから、検査がしっかりしてるのは本当に大事。

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    芳朗 伊藤

    11月 28, 2025 AT 09:30

    生体同等性の基準が80~125%って、数字の範囲が広すぎない?これで『同等』って言えるのか?科学的根拠より、経済的都合で妥協してるだけじゃないの?

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