蕁麻疹と血管性浮腫:急性および慢性の治療法

投稿者 宮下恭介
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12月
蕁麻疹と血管性浮腫:急性および慢性の治療法

蕁麻疹と血管性浮腫とは?

蕁麻疹は、皮膚に赤く盛り上がり、かゆみを伴う腫れが現れる症状です。数時間で消えたり、別の場所に現れたりするのが特徴です。一方、血管性浮腫は、皮膚の深い層や粘膜に腫れが起こり、特に顔、唇、喉、手足に現れます。かゆみよりも、張りつめた感じや痛みが強いのが特徴です。両者は同時に起こることが多く、原因は同じことが多いですが、治療のアプローチが大きく異なります。

急性の蕁麻疹や血管性浮腫は、6週間以内に治まるものを指します。多くの場合、薬(ACE阻害薬など)、食べ物、虫刺され、またはアレルゲンの接触が原因です。一方、6週間以上続くのが慢性蕁麻疹で、日本を含む世界中で0.5~1%の人が一生のうちに経験します。このうち75~80%は原因が不明な「原因不明性慢性蕁麻疹」です。

急性蕁麻疹と血管性浮腫の治療

急性のケースでは、まず症状の重さを判断することが最優先です。喉の腫れや呼吸困難、舌の腫れ、よだれが止まらない、呼吸に補助筋を使うような状態があれば、気道の確保が緊急の課題です。この場合、エピネフリン(アドレナリン)の筋肉注射が必須です。気道が塞がる危険があるなら、すぐに気管挿管が必要になります。

呼吸に問題がなければ、まず抗ヒスタミン薬を服用します。セチリジン10mg、ロラタジン10mg、フェキソフェナジン180mgなどが一般的です。これらの薬は、ヒスタミンという物質の働きをブロックして、かゆみや腫れを抑えます。多くの患者で効果がありますが、効きにくい場合、2倍、3倍、場合によっては4倍の量まで増量することがガイドラインで推奨されています。

血管性浮腫が単独で起こり、かゆみがない場合は、ヒスタミンではなく、ブラジキニンという物質が原因の可能性が高いです。このタイプは、ACE阻害薬(高血圧の薬)が原因であることが多く、抗ヒスタミン薬やステロイドは全く効きません。この場合、薬をすぐに中止し、気道の状態を観察しながら、自然に治るのを待つのが正解です。症状は通常、3~4ヶ月で改善します。

ステロイド(プレドニゾロンなど)は、重度の症状や喉の腫れがある場合に短期間(5~10日)だけ使われます。しかし、長期使用は副作用が大きく、血管性浮腫には効果がないことが明確に示されています。そのため、ステロイドは「かゆみを抑えるため」ではなく、「気道の危険を回避するため」にだけ使うべきです。

慢性蕁麻疹の治療ステップ

慢性蕁麻疹は、根気強い治療が必要です。治療は段階的に進めていきます。

  1. ステップ1:非鎮静性抗ヒスタミン薬(セチリジン10mg、ロラタジン10mg)を毎日1回服用。効果が出るまで2~4週間続けます。
  2. ステップ2:効果が不十分なら、薬の量を2倍(セチリジン20mg)に増やします。それでもダメなら、別の抗ヒスタミン薬と組み合わせたり、夜にモンテルカスト10mgを追加します。これはNSAIDs(痛み止め)で悪化する人に有効です。
  3. ステップ3:さらに効果がなければ、フェキソフェナジンを最大540mg/日(朝360mg、夜180mg)まで増量します。これは処方外使用ですが、ガイドラインで認められています。
  4. ステップ4:上記でも効かない場合、オマリズマブという注射薬を検討します。これはIgEというアレルギーに関わる抗体をブロックする薬で、60~70%の患者で効果があります。ただし、専門医の診断と処方が必要で、月額約12万円と高価です。

治療がうまくいったら、症状が3~6ヶ月安定したら、薬の量を少しずつ減らしていきます。1錠ずつ、6~8週間ごとに減らすのが一般的です。急にやめると再発しやすいので、慎重に減薬します。

医師が腫れた唇の男性にエピネフリンを注射する緊急医療シーン。

血管性浮腫の種類と治療の違い

血管性浮腫は大きく2つに分けられます。

血管性浮腫の種類と治療法の違い
タイプ 原因 主な症状 効果のある治療 効果のない治療
ヒスタミン性 アレルギー反応、薬、食品 かゆみあり、皮膚に赤い腫れ 抗ヒスタミン薬、エピネフリン、ステロイド なし
ブラジキニン性 ACE阻害薬、遺伝性、原因不明 かゆみなし、痛みや張り、喉の腫れ ACE薬の中止、C1エステラーゼ濃縮液、イカチバント 抗ヒスタミン薬、ステロイド、エピネフリン

ブラジキニン性の血管性浮腫は、遺伝性(HAE)やACE阻害薬(リサノテック、ベンザプリルなど)が原因です。このタイプでは、抗ヒスタミン薬はまったく意味がありません。エピネフリンやステロイドも無効です。治療は、原因薬の中止と、専門的な薬(C1エステラーゼ濃縮液やイカチバント)の使用が中心です。これらの薬は、病院でしか処方できません。

避けるべき薬と生活習慣

蕁麻疹や血管性浮腫の悪化を防ぐために、いくつかの薬と習慣に注意が必要です。

  • ACE阻害薬:高血圧や心不全の薬(ベンザプリル、カプロプリルなど)は、血管性浮腫の最大の原因の一つです。一度でも浮腫が起きたら、絶対に再開してはいけません。ARBという別の高血圧薬(サルベタンなど)は、10%の確率で同様の浮腫を起こす可能性があるため、慎重に選ぶ必要があります。
  • NSAIDs:イブプロフェン、ロキソプロフェンなどの痛み止めは、20~30%の慢性蕁麻疹患者で症状を悪化させます。痛みがある場合は、アセトアミノフェン(タイレノール)が安全な選択肢です。
  • DPP-4阻害薬:糖尿病の薬(シタグリプチンなど)も、まれに(0.1~0.3%)血管性浮腫を引き起こすことが知られています。
  • ストレスと過労:慢性蕁麻疹の患者では、ストレスや睡眠不足が発作を引き起こすことがあります。規則正しい生活と十分な休息が治療の一部です。
慢性蕁麻疹の患者が月に一度の注射と減薬を静かに続ける夜の風景。

妊娠中や授乳中の対応

妊娠中や授乳中の治療は、特に慎重にする必要があります。

抗ヒスタミン薬の中では、セチリジンロラタジンが最も安全とされています。ただし、最大量(4倍量)は避けるべきです。通常の量(10mg)なら、授乳中でも問題ないとされています。ステロイドは、短期間なら授乳中でも使用できますが、長期使用は避けます。

オマリズマブは、妊娠中には使用が推奨されていません。治療が必要な場合は、産科医とアレルギー専門医が協力して、リスクとベネフィットをよく話し合って決めます。

診断と検査のポイント

原因が不明な慢性蕁麻疹や血管性浮腫では、検査で原因を突き止めることが重要です。

  • C4値:血管性浮腫の患者では、まず血液検査でC4値を測ります。この値が低いと、遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性が高いです。
  • C1エステラーゼ:C4が低ければ、専門医がC1エステラーゼの機能や量を調べます。
  • 薬の見直し:過去1~3ヶ月に使ったすべての薬をリストアップし、ACE阻害薬、NSAIDs、DPP-4阻害薬がないか確認します。
  • 食事日記:特定の食品と発作の関連があるか、2週間ほど記録すると、原因が見つかることがあります。

予後と長期的な見通し

急性蕁麻疹は、適切な治療で24~48時間以内にほとんどが治ります。血管性浮腫も、原因薬を中止すれば、数日から数週間で改善します。

慢性蕁麻疹は、5年以内に65~75%の人が自然に治ります。ただし、症状が長引くと、生活の質が下がり、うつや不安を引き起こすこともあります。そのため、早期に適切な治療を受けることが大切です。

オマリズマブなどの新しい治療法が登場したことで、従来の薬で効かなかった患者でも、症状をコントロールできるようになっています。治療の選択肢が増えた今、諦めずに専門医に相談することが、回復への第一歩です。

蕁麻疹と血管性浮腫の違いは何ですか?

蕁麻疹は皮膚の表面に赤く盛り上がり、かゆみが強いです。血管性浮腫は皮膚の奥や粘膜に腫れが起き、かゆみは少なく、痛みや張りが主な症状です。喉や舌の腫れは、血管性浮腫の特徴で、呼吸困難の危険があります。

抗ヒスタミン薬が効かないのはなぜですか?

ヒスタミンが原因の場合は効きますが、血管性浮腫の多くは「ブラジキニン」という物質が原因です。このタイプでは、抗ヒスタミン薬はまったく効果がありません。原因を正しく見極めないと、無駄な治療を続けることになります。

ACE阻害薬を飲んでいて浮腫が出た場合、どうすればいいですか?

すぐにその薬を中止してください。浮腫が喉にまで及ぶと、命に関わります。病院で気道の状態を確認し、医師と別の高血圧薬(ARB)に切り替える方法を相談してください。薬をやめれば、通常3~4ヶ月で症状は消えます。

ステロイドは慢性蕁麻疹に有効ですか?

急性の重い症状や喉の腫れには短期間だけ使いますが、慢性蕁麻疹の長期治療には向きません。10日以上使うと、骨粗鬆症、糖尿病、うつ、感染症のリスクが高まります。効果も限定的で、ガイドラインでは長期使用を推奨していません。

オマリズマブはどんな人に使いますか?

標準的な抗ヒスタミン薬を4倍まで増量しても効かない、慢性の原因不明性蕁麻疹の患者に使います。月1回の注射で、60~70%の人に効果があります。ただし、専門医の診断と処方が必要で、費用は高額です。